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マスカットフェア ワイン紹介⑦ モンテリアーナ モスカート・ヴィーノ・スプマンテ・ドルチェ (イタリア/ヴェネト州)

 イタリアはヴェネト州。ミラノから北に30km程度上がると、イタリアの誇るスパークリングワイン「プロセッコ」が生産される土地に辿り着きます。今回のマスカットワインは、プロセッコのメーカーによって造られるスパークリングワインです。 ここのメーカーが主力商品とするプロセッコは「グレラ」というブドウで造られる辛口のスパークリングワイン。でも、今回のこのワインはモスカート(=マスカット)から造られる甘口スパークリング。メーカーのホームページ内、プロセッコについての紹介がずらり多数並ぶなか、なんだかひっそり佇んでいるワインです。 特にといって際立った特徴の無い何かについて説明や謳い文句を付与するのはとても骨の折れることです。道の端に落ちている石ころに重要な意味を見出そうとするのとどっちが大変かな、、、。 評価や勲章が示されているものは世に多くあれど、勿論全部についてではありません。それに、知らない人が評価した何かだから、結局なんかよくわからんけどいいらしいってとこに落ち着く(こともある)。やっぱり何かに説明をつけるのって凄く難しいよ。 モスカートで造られるスパークリングワインの素晴らしい特徴の一つに、「ぽわん」と真ん丸な形をした味わいが挙げられます。軽く柔らかくも弾力のある、固めにしっかり泡立てた生クリームやメレンゲみたい。舌の上にポンと載る感触はモスカート独特の味の形です。 イタリアだけ見ても、モスカートで造られるスパークリングワインは沢山あります。モスカート・ダスティ、アスティ・スプマンテ、その他名も無いモスカート・スプマンテ。今回のワインは完全に「その他名も無い・・・」にカテゴライズされるものです。名前くらいはあるけど、身分は無いかな。 だったら他のスパーリングワインでもいいかなというと、そうかもしれないけど、それでもやっぱりこれはいいワインだなと思う。しっかりとした糖分を持ち、いきいきとした甘みの主張がある良いマスカットワイン。純粋な香りだちを口の中でコロコロ転がして楽しめるところは、プロセッコとお揃いです。

マスカットフェア ワイン紹介⑥ コイレ ドン・カンデ マスカット(チリ/イタタヴァレー)

 チリのワインをざっくりと東西南北にわけてみます。東へ向かうとアンデス山脈があって、その先にはアルゼンチンがあります。サン=テグジュペリの「夜間飛行」みたいなイメージでしょうか。東側のワイン産地はアンデス山麗の豊かな日差しと、標高の高い地域の寒暖差で、がっしりパワフルなタイプのワインに見合った場所。カベルネソーヴィニヨンとか、カルメネールとか。 西に行くと太平洋があります。南米大陸に沿って、南極からフンボルト寒流が通っているので、海の日差しの中でもこのあたりは涼しいみたい。京都市動物園のフンボルトペンギンの紹介にも、ちゃんと「冷たく栄養豊富なフンボルト海流の影響を受ける地域」と書いてあります。このあたりは割と最近になってから皆気になってきた場所で、ピノノワールやシャルドネなど、最近特に人気の、上品で香り高いブドウが植えられました。明るい果実の味わいの中に、少しピシッとした酸味や涼しげな香りのアクセントがあって、中々美味しい。 北と南は結構極端。思いっきり北に行くと、世界でも有数の降水量の少なさを誇るアタカマ砂漠、南へ突き当たるとご存じ南極。そこまで極端なところにブドウ畑はありませんが、ざっくり乾燥した北と、水が多い南、というイメージです。 そして、首都のサンチアゴがある中央~北部は都市部や輸出向けの大手ワイナリーがあるエリア、中央~南部は昔ながらのブドウ農家がある田舎。チリのワインは面白いので、大分回り道をしてしまいましたが、ここが今回のワインです。 今でこそ大手ワイナリーの多い北側がワイン産業の中心地ですが、以前は水が確保しやすい南側がブドウ栽培の中心地だったようです。ワイン造りの中心が首都近郊の方へ北上してしまったので、南側の畑は長らくほったらかし状態。今になって改めてそんな畑を見ると、古いブドウがたくさん植わった、面白い土地になっていた、ということです。ブドウの種類は、征服者スペイン由来のパイス、サンソー、カリニャン、モスカテル(マスカット)など。今回のコイレもマスカットです。 今、チリでは平坦な中央部から飛び出て、東の山に、西の海に、北の砂漠に、より極端で面白い土地にブドウ畑が切り開かれています。本当に砂漠にブドウを植えてしまったワイナリーもあるほど。そんな中で、南は以前のチリが持っていた伝統の再発見が行われているところ。ある意味一番ユニークで、そして一番大切な場所のように思えます。 そんな南の畑で育ったマスカットワイン。マスカットやオレンジのような香りはもちろん、良い意味でラフでざっくばらんとしていて、躍動感のある味わいを伝えてくれるワインです。口の中でがばっときてうおーっと味がする。これまで影になって見えなかった、チリのもう一つの顔を見た気がします。

マスカットフェア ワイン紹介⑤ フォルサ・レアル ミュスカ・ド・リヴザルト(フランス/ルーション地方)

 南仏ルーション地方で作られている甘口、ミュスカ・ド・リヴザルト。大体、甘口ワインはちょっと変わった方法で作られることが多いのですが、ミュスカ・ド・リヴザルトは発酵途中のブドウ果汁にブランデーを入れて作る、これまた変わった作り方。完全に発酵してないないブドウジュースのフレッシュな味わいと、ブランデーっぽいコクが楽しめる、面白いワインになります。 スペインカタルーニャ州のお隣、南仏のルーション地方がこの手の甘口ワインのメッカ。この時期、「チョコレートに合うワイン」として百貨店とかで売ってあるバニュルスも、ルーション地方の名産です。ものによっては、年数の違うものをブレンドしたり、長いこと熟成させたり、ガラス瓶で野外に放置して独特の香りをつけたり。よくもまあ色んなことを考えつくものです。 ブドウ果汁をいじり倒して作っているので、他とは違う香りやコクが美味しさのポイント。ブランデーをブドウ果汁に混ぜる、こういったタイプのワインはVDL(ヴァン・ド・リキュール)とかVDN(ヴァン・ド・ナチュール)と呼ばれます。細かい違いはググってみてください。 でも、せっかく香りが良いマスカットを使っているのだから、マスカットの香りをメインに楽しみたいと思うのは当然といえば当然。そう思ってかどうかは知りませんが、ミュスカ・ド・リヴザルトはVDLの中でもシンプルな部類。野外放置や樽で長く寝かせたりとかは基本的にしないので、マスカットの甘やかで爽やかな香りがしっかりとします。あとオレンジとかハチミツジンジャーみたいなほかっとする香りが良いですね。 夜とか大人の会話とか、なんというかシックなイメージがあるブランデーの雰囲気と、明るくて爽やかな、ピクニックのようなイメージのマスカットの香りが合わさって、とても素敵なミュスカ・ド・リヴザルト。夜、寝る前でも、お昼におやつと一緒にでも、どっちも楽しい。「朝を開けだして、夜をとじるまで」それぞれの楽しみがありますように。

マスカットフェア ワイン紹介④ マルセル・ダイス ミュスカ(フランス/アルザス地方)

 素直に美味しいとは思えない。でも決して不味いわけじゃない、むしろよく分からない不思議な感じがする。 そういうお酒や食べ物は、覚えておいた方が楽しいと思っています。小さいころから食べるのは好きでしたが、大人になり、昔は嫌いだった食べ物が好きになり、いろんな料理を自分で作るようになって、一層飲み食いが好きになったような気がします。糠漬けもパクチーも嫌いでした。らっきょうは今でもちょっと苦手です。 自分が美味しいと感覚的に思う味は、自分が食べてきたもので形作られたところもあると思います。自分が食べてきた食材や味付けは、自分が育った場所の文化や歴史の結果だったりして、それは地理的な制限があったり、階級や民族や色々なことが絡み合ってできてきたもの。「美味しい」という感覚は、実は色んなものに縛られているのかもしれません。 お酒や珈琲のような嗜好品には、感覚的な「美味しい」から離れたところでも楽しめる良さがあります。「品種の特徴がよく出ている」とか、「作られた場所の味がする」とか、「ご飯と一緒に飲みたい味だ」とかとか。個人的にはそんなにハマらなかったけど、あれは良いお酒だと思う、ということはよくあります。そうやって自分の好き・嫌いはおいといて面白がれるものが増えていくのは、自分の「美味しい」が広がっていくようでとても楽しい。  マルセル・ダイスのミュスカも、少しそういうところがあるお酒。はじめの印象は、情報過多というか、色々混ざっててよくわからないというか。マンゴーやらパイナップルやら南国フルーツの香りがすると思えば、ライムとかミントとか涼しげな香りもあるし、マスカットの分かりやすい香りがあるのにそれが目立たない。 味も、無濾過ジュースのようなトロっとした、どしっとした印象があるけれども、なんというかパワフルさや奥行きを感じるような、逆にサクっとした雰囲気も感じるような。マスカットのワインは、その香りの良さを楽しめるように、ふわっと華やかなスタイルや、甘やかな味わいに仕上げることが多いのですが、このワインはどっちでもない。 えー、なんだろう、でも面白い味だなあ。マルセル・ダイスではその土地を表現するために、色んなブドウ品種をごっちゃにして植えて、ごっちゃのまま発酵させたりしている。ちょっと濃いめの煮物にしたいから、砂糖は大匙2でみりんを大匙2で、濃口醤油、気持ち長めに煮込もう、というような、出来上がりの味をスタートにして逆算して作っていくワインじゃないんですね。あくまで土地があり、ブドウ品種があり、それが育った年の気候があってから、それをワインにしていく。 そういうことを考えてからワインに戻ると、味の印象が違います。ミュスカのフレッシュなイメージから、完熟してボリューム感のあるイメージまでがずらっと並べてあるようで、パノラマのように色々な味わいがあって、とても面白い。マスカットの色んな表情が見えるワインです。

マスカットフェア ワイン紹介③ ピエール・サラベル クレレット・ド・ディー トラディション(フランス/ローヌ地方)

ワインから色々な香りの要素がぽこぽこと感じられたりする。ワインを飲んでいるときは植物や果物、スパイスやその他突拍子もない何かが頭の中でもこもこと浮かんできて、食べ物が大好きな私としてはやっぱりワインって楽しいです。同じ理由でウイスキーもブランデーもジンも大好きです。もこもこモコモコ、ときには複雑な入り組んだ香りを楽しみます。一方、気持ちいいくらいに気楽な香りを放り投げてくるワインもまたとても良い。他には代えがたい、安心するワインです。これには風味の複雑さ、熟成による深みなどとは別の良さがあると思います。クレレット・ド・ディーが造られるローヌ地方といえば、どちらかというと南仏として認識されるところ。南仏なんて言うと暖かそうに聞こえますが、ディーという場所はほとんどアルプス山脈西端の麓。ディーから車で1時間半、北に100km上がるとグルノーブルという場所に出ます。グルノーブルから更に北上すると、やがてエヴィアンの採水地にたどり着きます。グルノーブルは1968年の冬季オリンピックが開催された地で、どことなく長野っぽい雰囲気のある場所です。大学があって、学生が多くいて・・・雪が降って・・・「あぁ冬季オリンピックあったとこか」と言われるような。ワイン産地でいうと、ローヌというか、サヴォワというか、むずむず。なんだか曖昧な位置。ディーの近くはそんなところ。要するに、クレレット・ド・ディーはほぼアルプス山中で造られるワインです。クレレット・ド・ディー トラディションにはミュスカ(=マスカット)大半に加え、南フランスのブドウ品種クレレットが少しだけ混ぜ込まれています。酸少なめのゆるっとしたブドウ。誰もが良く知るマスカットの香りに緩さが加わって、気持ちいいくらいに気楽です。ぽーんと、安心して身を委ねられるワインになります。気楽気楽。でも、気楽に“もたん”としつつも、同時に“さらり”としているクレレット・ド・ディー。アルプスの雪渓を思わせる透きとおった印象と、空気を包み込むような膨らみのある味わいが柔らかくてとてもいい。柔らかさとゆっくりとした感じがホワイトソースや乳製品の舌触りの柔らかさとスピード感がよく似ている気がして、ふう、グラタンが食べたくなってきました。グラタンが食べたいです。お腹が空くワインっていいです。

マスカットフェア ワイン紹介② コッポ モンカルヴィーナ モスカート・ダスティ(イタリア/ピエモンテ州)

 イタリアの愛すべきマスカットワイン、“モスカート・ダスティ“。甘口の微発泡です。有名な”アスティ・スプマンテ“と同じようなスタイルで、それより泡立ちが優しいものが”モスカート・ダスティ“。優しい味わいと甘み、キュートな香り立ちと度数の低さ故に、ワイン界の「ほろよい」とも呼べそうな地位を築いています。 正直、こういうワインは何を飲んでも美味しいのです。宅配ピザとスナック菓子でも用意して気軽に開ける分にはとても楽しい。みんなで映画でも見ながらね。 ただ、良いモスカート・ダスティは格別。味に奥行きがあり、香りのニュアンスに富み、雪解け水のように軽やかな甘みが口の中を満たすよう。全く飲み飽きず、一本通して楽しませてくれます。杯を重ねるごとに味や香りが広がり、展開し、発展していくのを追っていけるのは、ワインの大きな楽しみの一つ。 そんなモスカート・ダスティを探す過程はとても楽しいものでした。だって、そこまで良いワインじゃなかったとしてもそれなりに楽しくサクッと飲めちゃうから。ちょっと単調だったねーとか言いながらちゃんとボトルが空いている。これはひとつの美徳です。 コッポのモスカート・ダスティは、優しく華やかな香りと硬水のミネラルウォーターを思わせるようなカキッとした味わいのせめぎ合いが楽しいワイン。金柑シロップやマスカットや金木犀のような甘やかさと、ミントや渓流のようなひやっとしたイメージの味わいが軽快なリズムを作っています。アルコールは5%。口にするたびにひらひらと舞う、優美な綺麗なモスカート。この寒い時期の澄んだ空気と良く似合います。