マスカットフェア ワイン紹介⑥ コイレ ドン・カンデ マスカット(チリ/イタタヴァレー)
チリのワインをざっくりと東西南北にわけてみます。東へ向かうとアンデス山脈があって、その先にはアルゼンチンがあります。サン=テグジュペリの「夜間飛行」みたいなイメージでしょうか。東側のワイン産地はアンデス山麗の豊かな日差しと、標高の高い地域の寒暖差で、がっしりパワフルなタイプのワインに見合った場所。カベルネソーヴィニヨンとか、カルメネールとか。
西に行くと太平洋があります。南米大陸に沿って、南極からフンボルト寒流が通っているので、海の日差しの中でもこのあたりは涼しいみたい。京都市動物園のフンボルトペンギンの紹介にも、ちゃんと「冷たく栄養豊富なフンボルト海流の影響を受ける地域」と書いてあります。このあたりは割と最近になってから皆気になってきた場所で、ピノノワールやシャルドネなど、最近特に人気の、上品で香り高いブドウが植えられました。明るい果実の味わいの中に、少しピシッとした酸味や涼しげな香りのアクセントがあって、中々美味しい。
北と南は結構極端。思いっきり北に行くと、世界でも有数の降水量の少なさを誇るアタカマ砂漠、南へ突き当たるとご存じ南極。そこまで極端なところにブドウ畑はありませんが、ざっくり乾燥した北と、水が多い南、というイメージです。
そして、首都のサンチアゴがある中央~北部は都市部や輸出向けの大手ワイナリーがあるエリア、中央~南部は昔ながらのブドウ農家がある田舎。チリのワインは面白いので、大分回り道をしてしまいましたが、ここが今回のワインです。
今でこそ大手ワイナリーの多い北側がワイン産業の中心地ですが、以前は水が確保しやすい南側がブドウ栽培の中心地だったようです。ワイン造りの中心が首都近郊の方へ北上してしまったので、南側の畑は長らくほったらかし状態。今になって改めてそんな畑を見ると、古いブドウがたくさん植わった、面白い土地になっていた、ということです。ブドウの種類は、征服者スペイン由来のパイス、サンソー、カリニャン、モスカテル(マスカット)など。今回のコイレもマスカットです。
今、チリでは平坦な中央部から飛び出て、東の山に、西の海に、北の砂漠に、より極端で面白い土地にブドウ畑が切り開かれています。本当に砂漠にブドウを植えてしまったワイナリーもあるほど。そんな中で、南は以前のチリが持っていた伝統の再発見が行われているところ。ある意味一番ユニークで、そして一番大切な場所のように思えます。
そんな南の畑で育ったマスカットワイン。マスカットやオレンジのような香りはもちろん、良い意味でラフでざっくばらんとしていて、躍動感のある味わいを伝えてくれるワインです。口の中でがばっときてうおーっと味がする。これまで影になって見えなかった、チリのもう一つの顔を見た気がします。
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