マスカットフェア ワイン紹介④ マルセル・ダイス ミュスカ(フランス/アルザス地方)

 素直に美味しいとは思えない。でも決して不味いわけじゃない、むしろよく分からない不思議な感じがする。


 そういうお酒や食べ物は、覚えておいた方が楽しいと思っています。小さいころから食べるのは好きでしたが、大人になり、昔は嫌いだった食べ物が好きになり、いろんな料理を自分で作るようになって、一層飲み食いが好きになったような気がします。糠漬けもパクチーも嫌いでした。らっきょうは今でもちょっと苦手です。


 自分が美味しいと感覚的に思う味は、自分が食べてきたもので形作られたところもあると思います。自分が食べてきた食材や味付けは、自分が育った場所の文化や歴史の結果だったりして、それは地理的な制限があったり、階級や民族や色々なことが絡み合ってできてきたもの。「美味しい」という感覚は、実は色んなものに縛られているのかもしれません。


 お酒や珈琲のような嗜好品には、感覚的な「美味しい」から離れたところでも楽しめる良さがあります。「品種の特徴がよく出ている」とか、「作られた場所の味がする」とか、「ご飯と一緒に飲みたい味だ」とかとか。個人的にはそんなにハマらなかったけど、あれは良いお酒だと思う、ということはよくあります。そうやって自分の好き・嫌いはおいといて面白がれるものが増えていくのは、自分の「美味しい」が広がっていくようでとても楽しい。

 

 マルセル・ダイスのミュスカも、少しそういうところがあるお酒。はじめの印象は、情報過多というか、色々混ざっててよくわからないというか。マンゴーやらパイナップルやら南国フルーツの香りがすると思えば、ライムとかミントとか涼しげな香りもあるし、マスカットの分かりやすい香りがあるのにそれが目立たない。


 味も、無濾過ジュースのようなトロっとした、どしっとした印象があるけれども、なんというかパワフルさや奥行きを感じるような、逆にサクっとした雰囲気も感じるような。マスカットのワインは、その香りの良さを楽しめるように、ふわっと華やかなスタイルや、甘やかな味わいに仕上げることが多いのですが、このワインはどっちでもない。


 えー、なんだろう、でも面白い味だなあ。マルセル・ダイスではその土地を表現するために、色んなブドウ品種をごっちゃにして植えて、ごっちゃのまま発酵させたりしている。ちょっと濃いめの煮物にしたいから、砂糖は大匙2でみりんを大匙2で、濃口醤油、気持ち長めに煮込もう、というような、出来上がりの味をスタートにして逆算して作っていくワインじゃないんですね。あくまで土地があり、ブドウ品種があり、それが育った年の気候があってから、それをワインにしていく。


 そういうことを考えてからワインに戻ると、味の印象が違います。ミュスカのフレッシュなイメージから、完熟してボリューム感のあるイメージまでがずらっと並べてあるようで、パノラマのように色々な味わいがあって、とても面白い。マスカットの色んな表情が見えるワインです。



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